2019/07/05

この一瞬のことだけに気づく

「夢や希望をもって明るく生きることが大切だ」と考えている人も多いでしょう。自分の会社を設立したいとか、もっと収入のいい職に就きたいとか、有名になりたいなど、いろいろ理想を描いて夢や希望で心がいっぱいになっている人は、なかなか幸福になれません。心が未来に引っ張られて、現在から離れているからです。



それに、夢や希望を実現させるためには並々ならぬ努力をしなければなりません。お金が欲しいという人は、いまより何倍もの仕事量をこなさなければなりませんから、家族と過ごす時間も少なくなりますし、くつろぐ時間もなくなるでしょう。それでへとへとに疲れて苦しむのです。

一流大学に入ることを目指している学生さんは、やりたいことを我慢して、毎日猛勉強しなければなりません。それで希望の大学に受かればいいのですが、もし落ちた場合には、大変な失望感と挫折感を味わいます。

このように、夢や希望を持っているがために、私たちはたくさんの苦しみを味わっているのです。




そこで仏教は、「いまの瞬間をしっかり生きなさい」と教えています。受験生なら、先の試験のことを心配するのではなく、いまやるべき勉強をしっかりすればよいのです。


もし勉強しているときに心が過去や未来のことを妄想し始めたら、すぐに「妄想している」と気づいてください。そしてまた勉強に戻るのです。

大事なのは、何をしているときでも、いま起きている現象に気づくことです。疲れたら「疲れている」、いやになったら「いやになっている」、妄想したら「妄想している」と気づいてください。それだけでいいのです。

試験に合格してやろうとか、思考を全部消そうなどと気負う必要はありません。いま、この一瞬のことだけに気づけば、それで充分なのです。

誰でも、いまの瞬間だけなら簡単に気づくことができるでしょう。このことをよく覚えておいてください。あとはその気づきを持続すればよいのです。(続きます)











A. スマナサーラ長老 法話
Patipada(パティパダー)根本仏教講義
智慧ある人は愉しんで生きる④-1
(2013/05初, 2019/07/05再)