2023/10/09

自由 vs.執着「自由への突破口① 」

 

自由 vs.執着


「自由」を経験したことのある人はひとりもいません。

政治や経済の世界では「自由」という言葉を使って格好つけていますが、本当は誰も自由を経験したことはないのです。

自由というのは言葉だけのことで、世の中には存在しないものなのです。



自由の反対は、執着や束縛です。

自由とは違って、人は皆、この執着や束縛を日々経験しています。ですから「執着とは何か? 束縛とは何か?」ということについて学んだほうがよいのです。「執着や束縛のデメリットは何か? メリットはあるのか? なぜ生じるのか? どのように断つことができるのか?」ということを学ぶのです。


今まで一度も経験したことのない、全くわからない自由をいきなり目指すのではなく、「なぜ自由を得なくてはいけないのか? 何からの自由なのか?」を発見するのが、仏教的なアプローチです。


そこで、それを発見し、納得したら、束縛を断とうという意欲が生まれてきます。

「束縛は危険なものだ」ということがわかると、束縛を断つ意欲が湧いてくるのです。

その意欲がなければ、実践することは難しいでしょう。


自由はそう簡単に得られるものではありません。束縛は相当きついものですから、かなりの勇気を振り絞って頑張らなくてはならないのです。

怠ることなく励む人だけが、自由のやすらぎに達するのです。


束縛・執着とは何か?


束縛とは何でしょうか?

仏教用語に「upādāna(ウパーダーナ)」という言葉があります。意味は「執着」です。

これは簡単に理解できる言葉ではありません。お釈迦様が、執着はこころの問題だと見て、こころの働きを徹底的に知り尽くし、こころの認識機能を精密に知り尽くした上で、執着について説いているのです。


Cattārimāni, bhikkhave, upādānāni. Katamāni cattāri?

Kāmupādānaṃ, diṭṭhupādānaṃ, sīlabbatupādānaṃ, attavādupādānaṃ.

(Majjhimanikāyo 2.Sīhanādavaggo 1.Cūḷasīhanādasuttaṃ 143)


執着は四種類あります。


① kāmupādānaṃ:欲(五欲)への執着(欲取)

② diṭṭhupādānaṃ:見解への執着(見取)

③ sīlabbatupādānaṃ:儀式・儀礼・行等への執着(戒禁取)

④ attavādupādānaṃ:「我論」への執着(我論取)


一つずつ説明しましょう。


① kāmupādānaṃ(欲取)


一番目は、kāmupādānaṃ(欲取)で、欲(五欲)への執着です。

ここでの欲とは、感情のことではありません。

欲と言えば感情ですが、この欲は、こころの状態のことを指しています。

Kāmupādāna の kāma は感情ではなく、「眼・耳・鼻・舌・身」の感覚器官に触れる「色・声・香・味・触」の情報のことです。つまり、見るもの、聞くもの、嗅ぐもの、味わうもの、身体に触れるものに、「欲」と言うのです。


パーリ語では「眼・耳・鼻・舌・身」を「Cakkhu・sota・ghāna・ jivhā・kāya」と言い、それらに触れる「 色・声・香・味・触」を「rūpa・sadda・gandha・rasa・phoṭṭhabba」と言います。


感覚器官も、その対象も、物質(rūpa :色)です。仏教から見れば、「眼・耳・鼻・舌・身」も、「色・声・香・味・触」も、物質なのです。

この「色・声・香・味・触」の五つの対象に執着したり依存したりすることを、「欲」と言うのです。


一般的には、物にたいして欲と言わず、「物が欲しい」という気持ちに、欲と言います。

この kāmupādānaṃ の場合、kāma(カーマ)は物のこと、upādāna(ウパーダーナ)は執着で、その物に束縛されていることです。


・生存するために対象に依存する


私たちは生きるために「眼・耳・鼻・舌・身・意」に頼らなければなりません。

ご飯を食べる場合は、味や香りに頼らなければなりません。依存せずにはいられないのです。

見るものや聞くもの、嗅ぐもの、味わうもの、身体に触れるものがなければ、どうやって生きられますか?

生きるということは、そういうものに頼ることです。物に依存しているのです。

それで、このとき物にたいして愛着(upādāna)が生まれます。そのことを、欲取(kāmaupādāna)と言うのです。


(続きます)


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法話:スマナサーラ長老

自由への突破口 〜遠離から喜びが生じる ➤ 目 次

根本仏教講義 ➤ 目 次

文:出村佳子

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生きとし生けるものが幸せでありますように