賢者のアドバイスに耳を傾ける「問題をつくるのは誰か?⑥」からの続き
家族・隣人との関係
家族の問題について考えてみましょう。
互いに協力しあい、調和や慈しみをもって生活している家族はどのくらいいるでしょうか?
血のつながった家族だけでなく、まわりの人との関係はどうでしょうか?
私たちはテレビやインターネットを通じて世界中の人々を自分の部屋に招くことができます。
でも、となりの家に住んでいる人を部屋に招き、親しく話しをしようとはしません。
家族の顔を見る時間もあまりありません。
でも、テレビやパソコンの画面で、知らない人を見ながら何時間も過ごしています。
同じ家に住んでいるにもかかわらず、家族でさえいっしょに笑顔で会話をする時間がないのです。
このような家族関係のなかで、どうやって調和や幸せが得られるでしょうか?
悲しいことに、この利己的で冷ややかなふるまいが、今日の現代社会の特徴となっているのです。
結婚したあと、実の親や兄弟に見向きもしなくなる人もいます。
これは分別のある人間らしい生き方ではありません。獣のような生き方なのです。
私たちは互いに助け合い、必要とする人にたいしては心の支えになり、このようにしてコミュニティを保っていかなければなりません。
動物は人間ほど互いに助け合うことをしないものですが、それでもいっしょに生活しています。仲間や仲間の子供が敵に襲わせそうなとき、敵から守ることもするのです。
人は分別のある人間らしい生き方をしていないように思われます。自然な生き方から遥かに遠ざかってしまいました。それで多くの問題を抱えています。孤独を感じているのです。
実際、問題というものは一生涯、起こってくるものです。私たちはそれに一つひとつ対処していく必要があります。
問題には、「自然が引き起こす問題」があり、これについては人はどうすることもできません。
でも、「人がつくった問題」や「心が引き起こす問題」もあります。こうした問題は、人の妄想と無知から生じているのです。
不安定な心
精神不安定も、もうひとつの大きな問題です。
道徳を守らずに生きていると、自分の心のやすらぎや幸せだけでなく、他者の心のやすらぎや幸せも妨げてしまいます。
それで、内にも外にもいろいろな問題を引き起こし、さらには多くの不満や苦しみ、興奮、恐れ、不安定を引き起こすのです。
多くの人が、不満や失望の問題を抱えて苦しんでいるようです。それは、心に「満足すること」を育てていないからです。
育てているのは、楽しみたいという「欲望」です。このような人は、「育てる」とは「心を育てる」のではなく、「欲を追い求めることを育てる」ことだと思っています。
その結果、不健全な競争や嫉妬、敵意、憎しみなどを育てているのです。
互いに戦い、殺し始めます。このようにして、世界中が戦場に変わってしまうのです。
いま、誰もが平和を強く求めています。
神や霊、悪魔が苦しみをもたらしたと考えて、自分の不幸を、神や霊、悪魔のせいにしている人もいます。それで祈ったり崇拝したりします。
私たちは問題から逃げるためにありとあらゆることをしていますが、もとはと言えば、問題をつくっているのは、自分なのです。
ここで、諸々の問題をつくっているのは誰か、その問題を乗り越えられるのは誰か、ということがおわかりになるでしょう。
お釈迦様は、「自分の内(心)が世界をつくる」とおっしゃいました。
私たち一人ひとりが自己を制御することによって、世界が制御され、平和が保たれていくのです。
世界が平和なら、もう平和を求める必要はないでしょう。
平和も暴力も、よいことも悪いことも、つくり出しているのは「心」なのです。
(続きます)
・・・・・・・・・・・・・・・
出村佳子〔訳〕
"Who creates problems?" by Ven. Dr. K. Sri Dhammananda Thero
・・・・・・・・・・・・・・・