聞き上手になるために「ブッダの聞き上手入門 ④-2 からの続き
前回は聞き上手になるための最初の2つのポイントをお話しました。
真面目に聞くこと、そして自分の偏見は攻撃を受けると覚悟することです。
新しいことを学ぶときは、何か攻撃されている、やられているという感じがするものです。それが嫌な人は学べませんし、聞き上手になれないのです。
聞き上手になるために
3 拒絶感情を持たずに聞く
どんな話でも相手の話をいきなり拒絶しないで、まず聞いてみることが必要です。
人の話を否定するか、賛成するか、批評するか、反論するか、学ぶかは、あとの話です。
まず、データをそのまま心にインプットしなくてはいけないのです。データをインプットするような気持ちで、素直に相手の話を聞くのです。
でも、ただ聞いて覚えただけではよくありません。チェックポイントがいくつかあります。
・論理的か理性的かをチェックする
相手の話が終わってから、論理的か理性的かをチェックします。前にお話したチェックシートに入れてチェックしてみるのです。
1 論理的ですか?
2 証拠はありますか?
3 自分の主観、感想、感情を話しているのですか?
4 役に立ちますか?
5 自分の知識に新たな何かを加えますか?
6 この話を聞くと自分の心が不安になり、 困ることになりますか?
7 ただ雰囲気をつくるためだけに話しているのですか?
8 社交辞令的に交わさなくてはいけない言葉ですか?
(詳細は下記参照)
4 できるだけ相手の思考で理解する
それから、できるだけ相手の立場で理解しようとします。ものごとを理解したければ、話す人のフォーマットにのらなくてはいけません。
私が若いとき、ナーガルジュナ(龍樹)を学んだのですが、そのときは一か月足らずでだいたい終わったんです。みんなは、そんなの無理だと疑ったんですけどね。でも、終わったんです。なぜなら私はナーガルジュナの思考で、ナーガルジュナの価値判断で読んだのです。自分自身がナーガルジュナになったようなイメージを持って、理解しようとしたのです。反論する気持ちは使わなかったのです。そうすると、なんのことなく理解できたのです。時間はかかりませんでした。
ですから何かを理解しようとするならば、自分の思考で理解しようとするのではなく、相手の思考で理解しなければなりません。
子供たちはすごくお菓子が好きで、お菓子が食べたいんです。それで親に「買って、買って」と言って買ってもらうのです。
大人から見れば、なんでそんなもの食べるのかい、と思うでしょ。どういうことかというと、子供と大人では味覚が違うのです。子供が食べるお菓子はそんなに濃い味ではありません。薄いのです。大人が食べるお菓子は、子供には食べられません。味が濃いですからね。
そういうふうに子供の立場で考えれば、なぜお菓子を要求するのか、ということが理解できるのです。
5 普遍的かどうかをチェックする
普遍的に通じる話か、あるいは一部のグループだけに通じる話かをチェックします。これは仏教的な話です。これまでのチェックリストは一般的な話ですが、そちらに入らないものが、ここに入っています。
話の上手な聞き方として、
・真面目に聞くこと
・拒否反応をしないで聞くこと
・できるだけ相手の思考で理解すること(相手の思考パターンやフォーマットにのって理解すること)
についてお話しました。
理解してから、「それは普遍的に通じる話か、あるいは一部の人間だけにしか通じない話か」を判断するのです。
普遍的に通じる話の場合には、次のことをチェックしてみてください。
・自分に役に立つのか
普遍的に通じる話の場合は、その知識、その生き方が、自分を正すのか、自分の役に立つのかを調べるのです。相手が言っていることは普遍的だ、真理だとわかっても、ちょっと待ってください。「これは自分に役に立つのか」ということを調べるのです。
・十分に納得した上で実行する
普遍的に通じる話で、チェックシートによるチェックはすべてオーケーで、さらに自分のために役に立ち、これをやれば人格が向上するとわかったら、実行に移します。
実行する前に十分納得してほしいのです。 「聞き上手入門」に、なぜ実行の話を入れたのかと疑問が起こります。それも理解しておきましょう。
人が話すことはいろいろです。面白い話、楽しくなる話、新しいことを学べる話、知識な新たなデータを加える話、知っていることを確定してもらえる話、ただ暇つぶしのための話など。
ブッダの話は、
・理解力を深める
・生きることに役立つ
・悪い性格を善い性格に変える
・人格を向上する
・執着をなくして心を清らかにする
・解脱に達する道を案内する
話です。
ですから、「実行してみる」という条件が必要なのです。世間の話でも、実行してみなくては意味がない話はけっこうあります。
実行して自分で確かめてみる話の場合は、実行する前に話の内容を理解して納得することが欠かせません。
我々の知識はほとんどが他人の受け売りです。でも聞き上手になったら、結果として、他人の意見の受け売りではなく、新しい知識や智慧が、自分自身の知識や智慧になるのです。要するに、人が変わるのです。
・相手が信頼できる人間かを調べる
今までずっと聞き方について話してきました。言い忘れましたが、相手の話を聞く前にしなければならないことがあります。
まず相手が信頼できる人か、耳を傾ける価値のある人かを調べなくてはいけないのです。これが第一の条件で、最初にすべきことなんです。
誰かが話しているから聞こう、ではないんです。本があるから読もう、ではないんです。その人の話を聞く価値があるのか、信頼できる人間か、と調べなくてはならないのです。
例えば「我こそブッダの生まれ変わりだ」と言っている人がいます。本当に信頼できるでしょうか? 耳を傾ける価値があるでしょうか? まずそれを調べなければならないのです。
(続きます)
生きとし生けるものが幸せでありますように
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スマナサーラ長老 法話「ブッダの「聞き上手」入門」
文:出村佳子
根本仏教講義【目 次】
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