アングリマーラ/苦行者/預流果に悟った召使い〈ブッダに出会った人たち〉「来たれ見よ3-⑩」からの続き
●天界に生まれ変わったカエル
お釈迦さまに出会って幸福をつかんだのは人間だけではありません。神々や動物たちも心の安らぎを味わいました。
あるとき、比丘と在家信者たちがお釈迦さまの説法を聞いているところに、一匹の小さなカエルが餌を探しにやってきました。
このカエル、お釈迦さまの声が耳に入った瞬間、身動きできなくなりました。というのも、お釈迦さまの声にはある種の響きがあり、その声を聞くと心が落ちつくのです。
カエルは説法の内容は理解できませんが、足をたたんでその場に座りこみ、じっとお釈迦さまの声を聞いていました。
そこへ、ある在家信者が説法を聞くためやってきました。
持っていた杖を地面にさそうとしたところ、それがちょうどカエルの身体の上。
その瞬間、カエルは死んでしまいました。でも死んだ瞬間、天界に生まれ変わったのです。
天界に生まれ変わったカエルはビックリ、どうなっているのかと考察してみると、自分はちょっと前まで虫をとっていたただのカエルだったということが分かりました。
でも、なぜいきなり神になったのかと考えると、それはお釈迦さまのおかげだということが分かり、お釈迦さまに礼をしようと、地上に降りて礼拝し、説法を聞いたのでした。
説法が終わったとき、神(元カエル)は預流果に悟りました。カエルの身体では悟ることはできませんが、神になったところで悟りを開くことができたのです。
●子ヒツジと母ヒツジ
川は浅かったのですが、ヒツジたちはなかなか渡ろうとしません。
なぜかというと、群れのなかに母ヒツジと子ヒツジがいたからです。
子ヒツジは小さくて弱いものですから、母ヒツジが心配して川を渡ろうとしなかったのです。
羊飼いは困りました。いくら叱っても怒鳴っても脅しても、母ヒツジはいっこうに動きません。
そこへ、お釈迦さまがやって来ました。
お釈迦さまは黙ってヒツジの群れのなかに入り、そのなかにいた子ヒツジを抱きあげて川を渡り始めました。
母ヒツジはお釈迦さまの衣に口をつけながら後をついて行き、ほかのヒツジたちもいっせいに川を渡り始めました。
渡り終わると、お釈迦さまは子ヒツジを岸に置いて去って行かれました。
このお釈迦さまの行動を見ていた羊飼いは、「これが人の道だ」ということに気づきました。
「叱ったり、怒鳴ったり、暴力をふるっても、うまくいかない。相手の心を理解して、慈しみをもって接しなくてはならないのだ」と。
羊飼いは、母ヒツジの心を理解していなかったことに気づいたのでした。
●出家したかったヘビ
仏教が大好き、というヘビがいました。このヘビは動物の世界にいるのが嫌で、「サンガの世界に入りたい、出家したい」と考えて、勝手にお坊さんになったつもりになり、お寺に住みつきました。
お坊さんたちは、はじめのうちはあまり気にしませんでしたが、どこに行ってもヘビが横たわっていますし、夜になると明かりがありませんから、知らずにヘビを踏みつける可能性もあります。
そこで追い出そうとしましたが、ヘビは出家しているつもりでいますから、なかなかお寺から出て行こうとしません。
そこで、お釈迦さまはヘビにこのように話しました。(比丘たちはヘビと会話できませんが、お釈迦さまは動物たちともコミュニケーションできるのです)
「君はヘビの世界に戻りなさい。出家して修行ができるのは人間だけです。ヘビの世界にいても悪いことをしないで生活すれば、死後、善い世界に生まれ変わります。そうすればそこで修行できるでしょう」
出家しているつもりでいたヘビは、ものすごく悲しくなって泣きました。
それを見たお釈迦さまは、「いま君は心を清らかにしていますから、悲しむことはありません。必ずいつか悟れますよ」と慰めて、ヘビの世界に帰したのです。
人々の中にはちょっと変わった人もいて「地獄に落ちる道、堕落への道を教えてほしい」と言う人もいました。
そういう人にたいしてお釈迦さまはどのように答えたのでしょうか?
お釈迦さまは、「堕落への道」をきちんと丁寧に教えられたのです。
それでその人は堕落したと思いますか?
いえ、彼は「お釈迦さまは見事だ。天国への道を教えてほしいと言えば、完璧に教えてくださるし、地獄に落ちる道を教えてほしいと言えば、完璧にその道を教えてくださる。こんな智慧のある方はほかにいない」と考え、仏教徒になったのです。
(続きます)
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法話:スマナサーラ長老
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文:出村佳子
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生きとし生けるものが幸せでありますように