正精進(Sammā vāyāma)には4つあります。
正精進① 今ある悪いところをなくす
ひとつ目は「自分の悪いところやダメなところ、いけないところを直すために努力する」ことです。
この「悪いところ」とはどういう意味かというと、お釈迦様が使われた言葉は、不善(akusala)で、「巧みではない、上手ではない、下手」という意味です。
何か不善の性格があるなら、それを努力して直さなくてはなりません。
不善にはいろいろありますが、とくにお釈迦様が厳しくおっしゃったのは「怠けてはならない」ということです。
■ 朝早く起きる
朝早く起きられない人は、努力して、その怠けの性格を直したほうがよいでしょう。徹夜で仕事をした場合は例外ですが、一般的に私たちは夜寝て朝起きて活動します。朝早く起きれば、仕事がたくさんできます。
とくにスリランカなどの南の国では、朝4時ごろに起きるとかなり元気に能率よく仕事ができます。
10時や11時ごろになると気温が上がって暑くなり、身体が疲れて仕事のスピードが落ちてしまうのです。それで日中、長めに休んだあと、また仕事を再開し、夜の7時か8時ごろまで仕事をします。
日本は気候や環境が違いますが、それでも朝早く起きれば時間を有効に使うことができますし、効率よく1日を過ごすことができるでしょう。
■ 浪費ぐせ
お金の管理が下手な人は、頑張ってそれを直すように努力しなくてはなりません。
お釈迦様は在家の方にたいして、「財産の管理は家庭のあるじである奥さんにまかせてください」と教えられました。
旦那さんは外で仕事をしてお金を持ってくる。奥さんがそのお金を管理して家計のやりくりをするのです。
そこで、もし奥さんが贅沢好きで、旦那さんの稼いだお金をすべて自分の欲しいものに使っているなら、当然、その家庭は崩壊するでしょう。贅沢もお金の浪費も、不善な生き方です。
そういう性格のある人は、努力して戒めて、心を直さなくてはなりません。
といっても、もし奥さんが精神的に弱くて、浪費ぐせの性格を改めることができず、品物を見たら買い物せずにはいられない、買物症候群とよばれるような病気を持っているなら、奥さんにお金の管理をまかせることはやめてください。そのほうが家族のためになるでしょう。
誰にでも弱点や欠点はあるものです。
そこで、そうした自分の悪いところを見て、その悪いところを直す努力をすること、これが幸福への道です。
私たちには悪いところやだらしないところがいっぱいあります。ですから、日々、努力精進しなければなりません。
ひとつ悪いところを直すと、別のものが顔をだします。隠れていて、さっと顔をだすのです。
それを直すと、また別のものが顔をだします。
ですから常に努力して、自分の悪いところを直していかなければならないのです。
正精進② やったことのない悪いことを、これからもやらない
正精進の2番目は、今までやったことがない悪い行為を、これからもやらないように努力することです。
世の中には悪行為や破壊行為がいっぱいあります。
たとえば、一度も麻薬に手をだしたことがないのに、悪い友達に誘われて、じゃあ一回だけやってみようと興味本位で手をだす人もいるかもしれません。
麻薬を使用することは、悪行為です。
そこで仏教は、「あなたは今までやったことがないのだから、これからも頑張って、どんなに誘惑されても、やらないことを守りとおしてください」と教えます。
その点では、徹底的に頑固になってもかまいません。
一度も酒を飲んだことがないとしましょう。会社の上司や同僚に誘われて居酒屋に連れていかれ、みんなに「まあいいじゃないか、一杯だけ飲みなさい」と誘われても、断るべきです。
私は一度も酒を飲んだことがないのだから、これからも絶対に飲みません、という態度をしっかり守ったほうがよいのです。
このように、今までやったことのない悪い行為はこれからもやらないよう、自分を戒めなくてはなりません。
世の中は誘惑だらけです。社会を見ると、何十年もまじめに生きてきた人が突然悪いことをする、ということがあります。50歳までまじめに仕事をしてきたのに、51歳でお金を盗んだとか、不正をしたとか……。
それで、今までこつこつ積み上げてきた成果も信頼も、全部消えてなくなってしまうのです。
ですから「今までやったことのない悪行為は、これからもやらないように努力すること」が大切なのです。
あるやり手の若い営業マンが自分の会社に入ってきたとしましょう。その人はうまい口調で人を騙し、何かちょっと不正をしたりして、顧客をたくさん獲得していきました。
自分はこつこつ正直に営業をやってきたのに、その人に先を越されてしまいます。それでどんどん悔しくなるのです。
おまけにその人はブランドのネクタイを締め、ブランドのカバンを持ち、ブランドの腕時計を身につけています。
でも、自分は3千円の時計。なんで自分はこんなに苦労しなくちゃいけないのか……、まじめに働いているのがばからしい……、とみじめな気持ちになったりします。
これも一種の誘惑です。
お釈迦様は、「あなたはそれでいい。悪いことはやらないでください。あなたは今まで悪いことをやらなかったのだから、いくら誘惑されても、頑張って、歯を食い縛って、自分のポリシーをつらぬいてください。勇気を持ってください。間違ってでも悪いことをしてはなりません」と教えているのです。
これが幸福への道です。
(続きます)
根本仏教講義『希望と欲望④-2』
スマナサーラ長老法話