〈2018年11月6日更新、2008年4月26日作成〉
「希望」と「欲望」 ―― どちらの言葉にも「望む」という言葉が含まれています。
しかし一般的に「希望」のほうはよいものとされ、「欲望」のほうは悪いものとされています。
私たちが「どのように望むのか」ということで、意味がよいものにも、悪いものにも変わってくるのです。
希望とは?
まず「希望」から見てみましょう。
これは、何かの実現を願い望むという意味です。英語では、hope・wish・aspiration など、いくつか言葉があります。これらはどれも肯定的な意味で使われています。
とくに aspiration にはとても積極的な意味があり、否定的な意味で使われることはありません。
否定的に使う場合は、たとえば hope なら、語尾に less を付けて hopeless とします。そうすると否定形になるのです。
欲望とは?
次に「欲望」を見てみましょう。
文字どおり、欲望は、欲に基づいて何かを望むことです。欲に基づいているのですから、道徳的な立場から見ますと、これは善いものではありません。
欲には、いろいろなレベルがあります。
いちばん悪くて病的な欲望は、パーリ語で「abhijjhā(アビッジャ―)」と言います。
これは、非常に欲が深く、必要以上に欲しがること、貪欲、という意味です。
Abhijjhā の語を分析すると、Abhi と ijjhā の二つの語からできており、Abhi は「常識レベルを越えている」という意味、ijjhā は「希望する、欲しがる」という意味です。
そこで Abhijjhā は「常識レベルを越えて欲しがる」という意味になります。
ところで、仏教には「十悪」という教えがあります。悪い行為を十種類に分けているのですが、その十種類のなかに Abhijjhā(貪欲)が含まれているのです。
十種類の悪行為とは、
① 殺生:生き物を殺すこと。
② 倫盗:盗むこと。
③ 邪淫:邪まな行為。
④ 妄語:嘘をつくこと。
⑤ 悪口:悪い言葉で人の心を傷つけたり、貶したり、誹謗したりすること。
⑥ 両舌:人の仲を裂くためや調和を壊すために噂話をすること。
⑦ 綺語:意味のないことを話すこと。無駄話。おしゃべり。これは時間と頭の知識を無益に浪費します。
⑧ 貪欲:強い欲望(abhijjhā)
⑨ 瞋恚:強い怒り(vyāpāda )
⑩ 邪見:見方が間違っていること(micchāditthi)
この十種類のうち、重い罪は貪欲と瞋恚と邪見です。
さらに、その中でももっとも重いのは、邪見です。
(続きます)
パティパダー誌2008年5月号
根本仏教講義『希望と欲望①-1』
スマナサーラ長老法話
編集/文責:出村佳子
編集/文責:出村佳子