損のない生き方「損得勘定の智慧 1」
「入るもの―出るもの」と言えば、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
因果法則に見られる give & take
生きる上で「損か、得か」と勘定することは必要でしょうか?
一般的には「損得を計算して行動するのは利己的で意地汚い」と思われているようです。そう思うのは、世の中の仕組みを理解してないからです。実際のところ、私たちは「損得」を考えずに生きていられません。なぜなら人間関係というものは、基本的に「損得」の関係、あるいは「与えて得る」という関係で成り立っているからです。英語ではこれをgive& take(ギブ・アンド・テイク)と言います。仏教から見ればgive & get(ギブ・アンド・ゲット)と言う方が正しいのですが、ここでは皆さんが聞き慣れているギブ・アンド・テイクを使って話しを進めることに致しましょう。
① X >Y(XがYより大)の場合、X→Y または X←Y
XとYは人を指しています。XはYよりもモノをたくさん持っているという状態です(X>Y)。このときモノを多く持っているXが、少しか持っていないYに「与える」「行く」ということが起こります(X→Y)。
② X=Yの場合、「合併」または「分離」
XとYが同等のレベル(X=Y)の場合、二つは合併するか、または分離するという関係です。「合併する」というのは、たとえば夫婦が共働きで二人とも同程度の所得があるとしましょう。新しい車を一台購入することにします。しかし一人分の貯金では中古車しか買えません。そこで双方が「合併」してお金を出し合って新車を買うといった関係です。
③X・Yの場合、X―Y
次はXに有るものが(X)Yには無い(Y)という状態です。この場合、YはXから無いものを「貰い」、XはYに「分けてあげる」という関係が成り立ちます。たとえばXとYが二人でどこかへ出かけました。Xは弁当とお茶を持って行きますが、Yは近くの店でお茶を買うつもりで弁当だけを持って行きます。ところが現地に着いても店はなく、お茶を買えませんでした。結果として、XはYにお茶を「分けてあげる」ということが起こるのです。
④XとYが結合してZになる
異なる二つの性質のもの(XとY)が結合して、別のもの(Z)になるという関係です。たとえば物質の世界では、水素原子と酸素原子が結合して、別の性質である水になりますし、政治の世界でも、ときどき異なる二つの党派が結合して、新しい政党を組織することもあります。
⑤ (XーaとYーb) で (X+bとY+a) の関係
この関係を考えてみましょう。たとえばコンビニへ弁当を買いに行きます。弁当を買えば自分の財布のお金は減ります。(X=自分、a=お金で、Xーa)。またコンビニの弁当も一個なくなります。(Y=コンビニ、b=弁当で、Yーb)。換わりに自分はコンビニの弁当を得て(X+b)、コンビニはお金を獲得します(Y+a)。この関係は、自分が持っているものを出すことによって相手のものを得る、というギブ・アンド・テイクの関係です。
損をしない生き方を
以上、考察したように、私たちは生まれた瞬間から、この世を去る瞬間まで「与えて得る」の人生、または「損得」の人生を生きています。
人間関係は「損得」の原則に基づいて成り立っているのであって、損得を抜いた「美しい人間関係」という綺麗事はありえないと言ってもよいでしょう。この事実をよく理解することが大切です。
つまるところ、自分が他人と仲良くしているのは、その人から何かを得たいからであり、また他人が自分に接近しているのは自分から何かを欲しがっているからなのです。これは自然の法則です。何も得るものがなければ近づく必要はありません。得るものがあるからこそ、私たちは他人と仲良くして、付き合っているのです。
それには悪の道を避け、生き方を改良し、法に適った正しい生き方を営むことです。
損得勘定をしない人は「損」をする
次に、損得勘定に無頓着で無関心でいるとどうなるかを考えてみましょう。
自分の損得を勘定できない人は、他人の損得も勘定できません。ですから、自分のことしか考えられず、他人とうまく付き合うことができない自己中心的な性格になります。疑い深く、他人を信頼できず、優柔不断で、人に何か頼まれても「自分にはできない」と引きこもったり、「私はダメな人間だ」と自信を失ったりしがちです。また口のうまいセールスマンに「これはお買い得の商品ですよ」と勧められると、自分に必要かどうかは計算せずに、すぐさま飛びついて買ってしまい、お金を浪費することもあります。
アルボムッレ・スマナサーラ長老法話
文:出村佳子